「そういえばおこのみやき食べたことないかもね」
「そっかー、じゃあ今度作ろうねえ」
その日はそれで終わった。
子が無事に、ふたたび学校へ登校した水曜日はおどろくほど暖かい1日だった。家にいられたので、買い物は朝済ませた。すると豚バラが割引。「…あ、お好み焼き」と思い出した。Today is the day きょうこそその日ではないだろうか。
何が必要か、スーパーに売っているお好み焼きソースやお好み焼き粉の裏に書いてある材料を参考にしてとりあえず基本のものだけ手に取った。
ソース
豚肉
キャベツ
これがあればなんとか作れる。ばばばあちゃんの本では小麦粉を使っていた。お好み焼き粉じゃなくても作れるだろう。
その夜、オタフクソースのウェブサイトを見ながら作ってみた。ホットプレートがないのでフライパンを使った。キャベツが多いので「生地」っぽさがない。もはやキャベツにからまった生地、という感じ。ひっくり返すのもうまくいって、2人で拍手した。
2枚焼けたが、これが思った以上に美味しかった。こんなにおいしいなんて、驚いた。生地が「キャベツ」なので、全然重くない。おいしい、おいしい、と言って2人で食べた。私は最近イタリアから届いたパンドーロを食べ過ぎているのと、そもそも昼ごはんにランチビュッフェなんてものを1人で楽しんだので、夜は食べないでおこうと思っていたのに、焼きたてのお好み焼きに抗うのはとうてい無理だった。
こんなに簡単でおいしいんだったら、また作ろうね、と言って満足して夕飯を終えた。
子の「はじめて」に立ち会うのは興味深く喜ばしいことだがこれまでその多くは「食」であったと思う。4歳ぐらいのときにハンバーガーを食べに連れて行って、本人以上に私が喜んでいた気がする。この子の、体験の幅が広がると思うと嬉しかった。ここ最近は、さすがに8年も生きていて、あまりそういう経験がなかったような気がする。給食でもいろんなものを食べているだろうし。そんなときにこのお好み焼きの体験は私にも子にも新しく、嬉しかった。シンプルだけど、嬉しかった。