ほんとうにどうしようもない世の中だけど、良いこともたくさんあふれている。そういうエピソードは心がけて記録すると少し前向きになれるかもしれない。
3日。10時ごろ子と外に出かけた。子は三輪車、私は徒歩(というか小走り)というスタイルがここ最近の定番である。天気が良い。太平洋側の正月というのはこんな感じなんだなあとあらためて東京の運の強さみたいなのを思い知る。東京の冬はいい。空気がパリッとしていて空が青く、高い。
公園で追いかけっこなどした後、スーパーへ向かった。お目当ては、アンパンマンのお菓子セットである。
前日の2日、煮物のための干し椎茸を買いに立ち寄ったスーパーで、子が叫んだ。
「ああっ!!こんなのがあるよ!」
と手にしていたのは「割引きコーナー」に置かれていた、ブーツ入りのお菓子。クリスマス仕様なので1000円が500円に割り引かれている。
「またこんなものを…」と思った。ちょうどその1時間前に「アンパンマンペロペロチョコ」を買ってあげたのでその日はもうこれ以上何か買う気は無かった。
私「買わないよ。今日は買わない。」
子「買うの!買うって言ってるでしょ!」
このやりとりをしばらく続け、子はその場でわめいた。それでも買わなかった。最終的には我慢ができた。
なので、1日たった昨日、まあきょうは買ってやっていいかと思ったわけです。
張り切って2人できのうの割引きコーナーに向かうと…
ない!!
昨日までいくつかあったはずの赤いブーツがない!
私「あ〜 ないよ〜 誰かが買っちゃったんだ〜」
子「え〜 きのう買えばよかった〜」
これはしょんぼりである。「仕方ないよ」と言いながらしばらくその場に立ち尽くしていた。諦めて去ろうとしたその時だった。
「もしかして、アンパンマンのやつですか」と後ろから声がした。
エプロンをした男性の店員さんが立っている。太めで、若めだった。半端に剃られたひげ。
私「えっ!どうしてわかるんですか。はい、そうですけど」
と答えた。
聞くと、残念がっている子どもの声が聞こえたので、出てきたという。そして商品は、ちょうどきのう店長と「廃棄処分だね」と言って店頭から下げていたらしい。
しばらく待つと「これですかね」と言って例のものを店員さんが持ってきた。
「あー!それです!よかったねぇ!ありがとうございます!」叫ぶ子と私。
さらに「これ、廃棄寸前だったのでさらに割引になる可能性があります。ちょっと待っててください」と言われてさらに待った。
並んでいる商品を見ながらしばらく待つ。オリーブオイルがずらっと並んでいてひとつだけ欠けていた。
子「あ、vino(ワイン)がたくさん」
私「これね、オリーブオイルだよ」
子「これはどうしてないの」
私「誰かが買ったんだよたぶん」
子「たぶん、パパが買ったんじゃなーい?」
私「ははは、そうかもしれんね」
そんな会話をしている間に店員さんがやってきた。
なんと値札が500円から200円になっているではないか。
私「えー!いいんですか」
店員「廃棄処分なので」
店員がとても嬉しそうである。
私「よかったね!ありがとうございます」
子「ありがと!」
ヤター、ヤター、と赤いブーツを抱えて飛び跳ねる子。
世の中こんないい人もいるもんだなあと思った。彼自身も、まさに店員冥利に尽きる、といった感じであらためて私に「いやー、処分品の近くから声が聞こえたんでもしかしてと思って」と笑いながら言っていた。おかげでこれはその日一番の「良いできごと」のうちのひとつだった。店員本人がかなり嬉しそうだったのが、私にとっても嬉しかった。こういう機転の利く、柔軟な人がいるスーパーというのは労働環境としてきっと良いんだろうと想像できる。マニュアル通りにしか動けない店員が世の中たくさんいるなかで、彼の行動はすばらしく人間味にあふれたものだったと思う。
お菓子は結構たくさん入っていた。でも1000円でこれを売るとはアンパンマンも強気だなあ。