きのうから小学校は給食がない。Fは仕事がある。4時間で帰宅するのでお昼には家にいなければならず、仕事どうしようかと頭を抱えていた矢先、Fの仕事が午後からだからお昼は心配ないということがわかった。ホッと一安心。それでも少し早めに退勤して3時には家についた。お好み焼きを作ることになっていたので材料を買って帰った。キャベツ、卵、そして大事なのがお好み焼きソース。先月作って以来、こどもがとても気に入っていて、なんだかんだで週1くらいで作っている気がする。
3時になるや否や、子は隣の家に遊びに行った。「4時まで!」と言い残して去った。大きくなったなあ、としみじみする。その間に私は、先日買った布でクッションカバーでも作ろうとミシンを出してきた。掃除機をかけたり、片付けをしたり。
4時すぎてこっちに戻ってこさせた。学期末なので宿題はないらしいが空欄だらけのテストがどっさりある。すべては無理だけどとりあえず目立つものを1枚、やることにした。算数だ。以前なら断固としてやらなかったが最近は「わかったよ〜」と渋々ながらも取り組むようになった。足し算、引き算、掛け算、図形のまとめ。
ようやく表が終わって、裏に入る。大した問題ではない。集中して考えればわかる。なのに「こんなのを子供にやらせて正しいと思うの?」「どうせママが勝つんでしょ」「ママは勝ちたくて言ってるんでしょ」もはや文句しか言わない。ゼロの書き方が反対だったので注意すると「そもそもこんなにたいへんなのにやる気がなくなることを言わないでよ」と言う。さらに「もう疲れた」「脚が痛い」…
こちらの我慢が限界に達した。「もうやらなくていいよ」「先生がこの前泣いたっていう気持ちがよくわかるよ」と怒った。
そう、先生は泣いたらしい。不平不満しか言わない上にふざけつづける子を前に涙したらしいのだ。それは相当だ…と思っていたけど、実際これに付き合っていたら私も悲しくなってきた。無力さと苛立ちを感じる。ここまで辛抱して、横について、手伝おうとしているのに、文句しか言わない。屁理屈ばかり言っていてる。「これは先生も泣くわ」と思った。つきあっていられない。
そうするとさすがに反省したらしくしょぼんとなって残りの1問を解いた。私は席を立ってお好み焼きのためのキャベツを刻み始めた。
「ぜんぶ自分でやる…」としょぼんとしてお風呂に入りに行く子。
廊下に出てから声を出して泣いている。様子を見に行くと「こんなに叱られたら僕だって泣くよ」と言う。「だったら、どうせ勝ちたくて言ってるんでしょとか言うのはやめて」と言うと、わかった、と言ってとりあえず落ち着いて、お風呂に入り始めた。
うーん、わたしはよくないことをしているのだろうか。自己嫌悪に陥るいつものパターンである。怒らずにいられるほどの忍耐力がない。説明をすればわかる子、なのかもしれないけどあの場で説明することばは私には残っていなかった。こうやって子の自尊心をつぶしているのかもしれない。さっきも4+6がわからないとグダグダしているときに「一年生の問題だよ。◯◯くんはきっとわかるよ」と近所の1年生のことを言うと「どうして人と比べるの!」と言っていた。あれはよくなかった。やっていけないことをやってしまった。
ネチネチ怒るのはよくないのでこれはこれで終わらせた。髪を乾かしてあげて、お好み焼きを焼いた。ボウルに入ったキャベツの山を見て「うーん、おいしそう!」と言う子。焼く前の状態がおいしそうとは思えないのだがこれは私の機嫌をとるための、この子のやり方なのだ。不自然なんだけど、こうするようになってしまったのもわたしに責任があると思う。なにかしら興味、関心、反応を見せないと怒るというパターンがこれまで多々あったのだ。それで、こうなってしまった。
夜、ふとんに横になる。この冬買った布団乾燥機が活躍していて、あっためているところに「あったかーい」と言いながら子が入っていく。そして不意に
「まま、ぼく、どんな思い出もとっておきたい」
と言う。なんのことかと思って、どういうことか聞くと「怒られた思い出も、楽しい思い出も」と言う。
いきなりどうしたのかとびっくりした。
私「なに、これから遠いところに去るとか、そういうわけじゃないよね」
子「サル?」
私「どこか行くってこと」
子「ああ、それはないよ」
私「やだよ、明日の朝いなくなってたら。ふとんを手探りして、いない!いない!とか」
子「そして机の上に…」
私「机の上に?」
子「おてがみとかね」
私「やだなあ、『たくさんの思い出をありがとう』とかね」
子「そんなこと言ったら、ぼく涙出てきちゃうよ」
私「泣かないで」
子「うれしい涙だから、しんぱいしないで」
言っている間に私も涙が出てきた。ふと子の顔を見ると、本当に目がうるうるしている。そして一滴だけ涙がこぼれた。
2人で抱き合って、笑って、泣いた。
怒ってばかりでごめんね、と言うと、いいんだよ、怒られないと悪かったって思わないし。それにあんなに上手にお好み焼きを作れるママはいないと思うよ、と言う。
わたしは、自分自身についてこんなに反省することしかないのに、この子は私のことをほんとうによく見ていて、機嫌を取ることと、気に入られることにこんなに全力を尽くしている。わたしがこんなにしくじっているというのに、こんなに優しい子に、ちゃんと育っている。心配しなくていい。