子どもの誕生日その後。
朝から39度を超える発熱。9時には小児科に連れて行ったが特に薬を処方されるでもなく、PCR検査を受けるでもなく、家に帰ることに。このとき38.8度。いつもの風邪で、よくある発熱だと判断されたのだと思う。そして私もそう思った。解熱剤もなくてたぶん大丈夫ですと答え、帰宅。
誕生日プレゼントのレゴで遊んでいたが、限界がきてソファに横になる子。それから頭をなでてあげたら寝た。苦しいだろうになあ。せっかくの誕生日なのにかわいそうになあ。布団に寝かせ直してあげた。そのあとだいぶ長く眠っていた。3時間は寝ただろう。わたしはその横に座って、イヤホンを使ってずっとBTSのMVその他動画を見続けていた。
3時前ごろだったか、目を覚ます子。このときも39度前後の熱。「ケーキ食べたい」とはいうものの見たところそれどころではない。もう少し休んだら、と言い聞かせて横にする。それから「耳が痛い」と言い出す。熱が上がるとこういうこともあるのかもしれない、と思った。解熱剤をもらっておくべきだったなあとここで後悔。保冷剤で冷やすと少し落ち着くらしいが、それでもやはり耳の痛みを訴える子。小児科に電話してみよう、ということで携帯を手に取ったのが3時半ごろ。いつもの看護師さんは丁寧に「耳鼻科に行ったほうが良い」ということを説明してくれた。中耳炎などの可能性もあるということだった。今から外に出るのは面倒だなあと思ったが子の訴えは耳に集中している。しかも右耳だけ。行く?ときくと、うん、としっかりうなずく。こんな高熱の人間を2回も外に出して、あんまりよくないよなあと思った。
余談だが、子育てをしていて自分のずるさに気づくのは、判断を子供に任せるときである。単純な2択であっても自分がどうしたらいいかわからないときに、子に一任するかのように判断を求めてしまう場合が多い。「パンかおにぎりか」ぐらいだったらいいけど、ほんとうは親が判断して当たり前のところを子供に判断させ、さらに、それで、こどもに責任のないところで都合が悪くなると「でも今〜って言ったじゃん」などと子供のせいにすることがある。子どもも困るだろうに。
近くの耳鼻科に電話してみたら、熱があってもいいからそのまま来てくださいということ。隔離しないらしい。というわけで4時半ごろだったか、連れて行ってみた。そこまで待たなかった。ベテランの先生で、右耳を見た瞬間に「わっ…」とおっしゃる。どうしたかと思ったら「先が見えないよ、おかあさん」とのこと。耳垢が詰まりすぎていて耳の中が見えないらしい。というわけで耳の大掃除をすることになった。硬くなった耳垢を柔らかくし、掃除機みたいに吸い込むことに。目薬みたいな液を耳にいれて10分くらい横になって待つ。
「きょうは誕生日なんですよ」と言ったら看護師さんたちは「あら〜そうなの〜!おめでとう」と言ってくれた。子は「レゴをもらったの。でもレゴってなんのことかしってる?」と言って看護師さんたちに話し始める。
看護師さんってどうしてこんなに人にやさしくできるんだろうなあ。大変なことがおおいだろうに。ほんとに、泣けるレベルである。
10分後、掃除機のような機械をつかって、耳垢をとりだした。巨大な。びっくりした。目を疑う大きさだった。こんなのを耳に入れて過ごしていたのかこの子は。きっとろくにきこえてなかったんじゃないだろうか、と思った。そしてよく耳を掻いていたのはこのせいだったのだとわかったし、飛行機に乗っても耳が痛いを繰り返していたのはやはりこのせいだったんだろうと思った。「耳栓を入れて過ごしていたようなものだから」と医師は言う。
ここで「親として申し訳ない」という想いも少しよぎったが、耳掃除は歯みがきと違って必須ではない。先生に、耳掃除をしょっちゅうすべきなのか、と聞いたら、いやいやそんなことはないよと言われた。こうやって耳鼻科に来てからとれば良い、とのこと。というわけで申し訳ないというよりはとれてよかったという想いのほうが大きかった。
なんだかすっきりして家に帰る。そして急に元気になる子。もしかしてこれで熱も下がるのか?と思ったが、先生いわく、耳垢をとったあとのところでそれほどの炎症が見られるわけでもないので、耳のせいで発熱してたとは言い難い、ということだった。
しかし、それにしても急に元気になっている。家に帰ってしばらくしてから熱を測ったら36.9度。だいぶ下がっているではないか。病院にいく前まで39度近くあったのに。
ケーキ食べたい、というので今度こそケーキでお祝いすることにした。パパが昨夜作った、マスカルポーネのケーキ。上に、ブルーベリーで、名前と「5さい」と書いてある。実家からもらったろうそくを立ててお祝いした。
耳…
耳か…
と、わたしは半ばあっけに取られたような感じでケーキを食べる。「まさか、そういうことだったとは」と。耳に原因があるとは想像も、疑いもしなかった。そういえばまる1日、看病していてろくに食事をとっていなかったのでお腹が空いていた。2切れペロリとたべてしまった。
子の発熱は、まだ油断はできないのだが、やっぱり耳の影響は大きかったらしく、本当に熱は下がった。
人間の身体の神秘というか不思議についてその後ぼんやりと考えていた。不具合や反応が起きるといっても機械とは違うので、Aのボタンを押したらBのライトが光る、みたいな感じではないのだ。色々な要素が絡み合っている。そもそも個人差、個体差があり、そこに外環境(気温など)、前後の行動、ふだんの行動様式、習慣が関わってくる。脳や性格もたぶん影響するので、一概に「AだからB」とは言い切れない。以前、理科の先生が「医学は経験だから」と言っていた。たくさんのケースを積み重ねて判断基準がつくられていくのだろう。今回の件ではそれを思い知った。
「耳鼻科に行ってください」と電話でいう小児科の判断の適切さもすばらしかった。とりあえずもう一回来てください、ではなかった。たぶん親としてもこうやって経験が積み重なっていくのだろう。
100均で買ってきたHappy Birthdayと書かれたピカピカ光る風船を膨らまして遊び、満足そうに寝た。
キーワードは「耳」。一生忘れられない5歳の誕生日になった。